QUIET実験の初期観測結果




QUIET実験の初期観測結果がAstrophysical Journalに投稿されました。
arXiv:1012.3191



  QUIET実験概要 - インフレーション宇宙論の決定的証拠「Bモード」の発見を目指す!

   わたしたちが現在存在している宇宙は、超高温・超高密度の火の玉状態 (ビッグバン) から、はじまり、 約137億年かけて現在の大きさの宇宙に膨張したと考えられています。 では、ビッグバンの前には何があったのでしょうか? それに答えるのがインフレーション宇宙論です。 インフレーション宇宙論によると、宇宙はそのはじまりに、急激な加速膨張を起こしたとされています。 その際に生成された原始重力波が宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光の特殊なパターンである「Bモード」として観測することができます。 インフレーションのポテンシャルエネルギーは「r」というパラメーターで記述され、Bモードの強度は r にほぼ比例します。 r = 0.01 ~ 0.1 あたりの強度が、主要な理論で有力視されています。

   このインフレーション理論の決定的証拠であるBモードの発見をめざして、 QUIET実験はCMB偏光の精密観測を高度5,000mを超えるチリ・アタカマ高地でおこなっています。

   QUIET実験は2008年10月から、 43GHz帯に感度をもつレシーバー (CMB偏光測定器) を搭載して観測を開始し、 10,000時間をこえる観測データを蓄積してきました。 2年以上にわたる観測の途中 (2009年6月) で、 私たちは43GHz帯レシーバーを95GHz帯レシーバーに交換しました。



図1 :
[上図] QUIET実験の観測装置と周辺の様子
[右図] 装置の内部の様子(上図のピンク色の四角で囲まれた部分)

  初期観測データによるBモード探索

   今回の結果は、 はじめに搭載した43GHz帯レシーバーによる観測結果です。 観測期間はおよそ8ヶ月、総観測時間の約1/3にあたります。 残念ながら、まだBモードの発見には至りませんでしたが、 Bモードに対して世界第二位の上限値(r < 2.2 @ 95%C.L.)を与えました。 図2はQUIET実験とその他の実験によるBモードの上限値です。 現在ー位のBICEP実験は2年間の観測結果(r<0.73 @ 95%C.L.)ですので、 QUIET実験43GHz帯レシーバー装置の感度はそれと互角であることがわかりました。

   QUIET実験の95GHz帯レシーバーは43GHz帯レシーバーよりも約1.5倍優れた感度を実現しています。 2010年12月末までの観測データにより、世界最高のBモード探索結果が期待されます。


    
図2 :
QUIET実験やその他の実験によるBモード探索リミット。 43GHz帯レシーバーによる観測データ(観測期間8ヶ月)により、世界第二位のリミットを達成しました。 95GHz帯レシーバーによる観測データ(観測期間17ヶ月)により、世界最高のBモード探索感度を達成する見通しです。 観測装置のアップグレード ( QUIET-II実験 ) により、有力な理論から期待される強度のBモードを網羅することが可能になります。

  本格的なBモード探索へ向けて

   今回の結果で、もう一つ注目すべき点は、QUIET実験が系統誤差に対して極めて強固であることを証明したことです。

   Bモードは極めて微弱な信号です。 近い将来、Bモードを確実に発見するためには、検出器感度の向上だけでは不十分です。 従来の観測実験よりも桁違いに小さな系統誤差を達成する必要があります。 図3はQUIET実験が達成した世界最小の系統誤差です。 本格的なBモード探索へ向けて、十分な精度であることを証明しました。 また、主要な系統誤差の原因は特定されており、既に95GHz帯レシーバーでの観測に反映されてます。 今後の結果ではさらに優れた精度を達成する見通しです。


図3 :
QUIET実験が達成した世界最小の系統誤差。 本格的なBモード探索へ向けて、観測装置の強固さを証明した。

  今後の発展

   r=0.01レベルのBモード探索を目指して、 QUIET実験では検出器の数と感度を向上するアップグレード ( QUIET-II実験 ) を計画しています。 今回の結果から、
  1. 実際の観測条件下でのQUIET実験の探索感度
  2. 世界最小の系統誤差とそれに対する強固さ
が定量的に確認されました。
QUIET-II実験により、 Bモードが発見される日も遠い話ではありません。



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